目次

59

第59回

2024年9月11日更新

デ・キリコ 「形而上絵画」の詩情の核に 〜『通りの神秘と憂鬱』の少女~

 不思議な絵である。非現実な夢の世界だが、妙に惹きつけられる。皆でわいわい、祝杯でもあげるようにして楽しむ絵ではない。万人が認める美とは異なる。それでいて…

第59回

2024年9月11日更新

デ・キリコからマグリットへ

1922年のことだったと伝わる。25歳のマグリットは、デ・キリコの『愛の歌』という絵を知人から見せられ(複製画だったらしい)、涙が止まらぬほどに…

58

第58回

2024年8月1日更新

マネなくしてドガはなく、ドガなくしてマネはなし

 まずは、ふたりの画家が描いた、それぞれの絵をとくとご覧いただきたい。ひとつは、マネによる「プラム」(1877頃 ワシントン・ナショナル・ギャラリー)。そして、…

第58回

2024年8月1日更新

マネVSドガ  〜その響き合いと独自性~

パリとニューヨークで開かれた「マネ/ドガ」展をベースに、もう少し、両巨匠について見てゆこう。時には、展覧会から少し離れてでも、自由に…

57

第57回

2024年7月4日更新

「台湾のゴッホ」を自画像に見た! 〜陳澄波、嘉義市立美術館での衝撃~

 写真で馴染んだ絵に、実際に生で接してその印象の差に驚くといったことは、何度となく経験してきた筈であった。だが久しぶりに、真作の絵に触れて、衝撃を覚えたのである…

第57回

2024年7月4日更新

「我是油彩之化身」―  〜画家・陳澄波をめぐる台湾の旅~

クリムトやシーレをめぐるウィーンの旅がある。フェルメールやレンブラントを目当てに行くオランダの旅……。フランスのジヴェルニーを訪ねて…

56

第56回

2024年7月4日更新

日本趣味(ジャポニスム)の美神は愛妻カミーユ 〜モネの『ラ・ジャポネーゼ』~

 初めてこの絵を見た時、「日本万歳!」とでも言うようなあからさまな日本趣味に目をみはると同時に、その作者が、水蓮の絵で知られるモネであることを知って…

第56回

2024年7月4日更新

永遠のミューズ。モネの妻・カミーユ

モネは水蓮ばかりにあらずと、めず臆せず啖呵を切ったようになってしまったが、印象派の巨匠に対して、ドン・キホーテよろしく無鉄砲な闘いを挑みたいわけではない…

55

第55回

2024年6月1日更新

山を描く  〜セザンヌの聖なる山、北斎の霊峰~

 なぜ山(エベレスト)に登るかと問われて、「そこに山があるからだ」と答えたのは、英国のアルピニスト、ジョージ・マロリーであったが…

第55回

2024年6月1日更新

セザンヌと北斎、山を描いた果てに

晩年、それぞれにひとつ山を描き続けたセザンヌと北斎について、もう少し筆を進めたい…

54

第54回

2023年9月30日更新

戦争への嘆き、怒り、痛み、そして祈り。  〜ルオーの版画『ミセレーレ』シリーズ~

 20年ぶりという大掛かりなマティス展が開催中である。パリのポンピドゥー・センターが所蔵する150点もの作品が…

第54回

2024年6月1日更新

福島繁太郎・慶子夫妻とルオー

1920年代から30年代にかけて、エコール・ド・パリ華やかなりし時代に、パリで画商として活躍した福島繁太郎…

53

第53回

2023年7月25日更新

マティスとの出会い  〜『ダンス』に見る生命の爆発~

 20年ぶりという大掛かりなマティス展が開催中である。パリのポンピドゥー・センターが所蔵する150点もの作品が…

第53回

2023年9月30日更新

福島繁太郎・慶子夫妻の見た画家マティス

福島繁太郎(1895~1960)の著書『エコール・ド・パリ』(1948~1951 全3巻)を読んでいる。70年以上も前に出た本だが…

52

第52回

2023年5月31日更新

東アジアの激動に揉まれて  〜陳澄波、悲劇の画家の目ざしたもの~

 コロナ前に訪ねた台湾旅行で、嘉義駅から阿里山に向かう登山列車に乗った。嘉義は台湾中部の町だが、その名を聞いて、1931年の夏の甲子園大会で準優勝を飾った…

第52回

2023年6月21日更新

画家・陳澄波の旅路。かく生き、かく描きたり。

1937年(昭和12年)に台湾新民報社が出した『台湾人士鑑』は、当時台湾で活躍した名士たちを、日本人、台湾人の区別なく掲載した一種の「紳士録」だが…

51

第51回

2023年2月26日更新

哀しくも愛おしき街  〜シーレの描いたクルマウ~

 人間の内面まで暴き出すかのような赤裸々な裸体画のイメージが濃いエゴン・シーレ(1890~1918)――。だが、実はシーレは風景画もよく描いた画家だった…

第51回

2023年5月31日更新

「naked」な街に自己を重ねて 〜シーレ・風景画の魅力~

シーレの風景画について、さらに書く。南ボヘミアのクルマウ(現チェスキー・クルムロフ)が母の故郷にあたり、1910年以降、シーレがたびたび足を運んだことは既に記した…

50

第50回

2022年12月10日更新

パリの街は永遠に  〜エドゥアール・コルテス~

 コロナが拡がって以降、海外旅行の不可能な状態が続いていたが、ようやく回復の兆しが見えてきた。美術好きには、世界のどこよりもこの地を訪れたく思う人も多い筈だ。花の都・パリ…

第50回

2023年01月30日更新

パリを描く 〜カイユボット、江戸から得たパースペクティブ~

 パリが花の都と呼ばれる美しい都市になったのは、19世紀中葉、ナポレオン3世の時代に、セーヌ県知事をつとめたジョルジュ・オスマンによって遂行された…

49

第49回

2022年10月23日更新

冥府の美神に寄せた恋 ロセッティ『プロセルピナ』

 ロンドンの文教地区チェルシーを歩くと、19世紀の様々な文人墨客の旧居に出会う。カーライルの旧居は博物館になって久しいが…

第49回

2022年10月23日更新

ラファエル前派、結社に生きた美神たちの嘆き

 「ラファエル前派」とは、19世紀中葉の英国に於いて、ロセッティ、ハント、ミレイによって始められた新美術運動の…

48

第48回

『坊っちゃん』の功罪?ターナー風景画の傑作、『チャイルド・ハロルドの巡礼』

 エリザベス女王のプラチナ・ジュビリーの祝賀行事を見ていて、10年間暮らしたイギリスを懐かしく思った。そのノスタルジアの感情の中から、ひとりの英国人画家が…

第48回

ミステリアス・マン、ターナー。「風景画家」の波濤の人生

 ターナーは風景画で知られた画家である。油彩だけでなく、水彩画も多く、終生風景を描いて独自の境地を築きあげた…

47

第47回

記憶のモザイク。ドガの描いたオペラ座

 ドガという名は、バレエとは切っても切れないものとして、世に定着している。チュチュをまとう白い妖精のような若い女性たちが…

第47回

20世紀絵画への橋渡し。  〜時代を突き抜けたドガの宇宙~

 私の描きたいのはバレリーナではなく、動きと美しい布だ」――。「私が興味を覚えるのは、動きをとらえることと…

46

第46回

『天寵』の画家・宮芳平 鷗外の恩愛を胸に

 今年2022年は、明治の文豪・森鷗外の没後百年にあたる。『舞姫』、『雁』、『山椒大夫』、『渋江抽斎』など、文学史上に残る…

第46回

没後百年。鷗外の「美術小説」とモデルたち

 『天寵』の画家・宮芳平(1893~1971)について、もう少し書きたい。そこから、森鷗外が美術をテーマに書いた4つの小説について見て…

45

第45回

ああドラマティック! 大原美術館の至宝、エル・グレコ『受胎告知』

 高校を卒業して大学に入るまでの春休みに、倉敷へ旅をした。もう45年も前のことだ。水辺に映える白壁の美しい街並みの風情を楽しんだ後、大原美術館に足を運んだ…

第45回

エル・グレコからシーレまで。聖セバスチャンが辿った「もうひとつの道」
〜聖セバスチャンの殉教~ その2

 「グレコは魂の画家だ」――今から百年以上も前に、木村宗八はグレコを評してそう語っていた(『エル・グレコ』…

44

第44回

2022年1月26日更新

史上最強の美しい男 ダ・ヴィンチ『洗礼者聖ヨハネ』

 日頃地方に暮しているので、都心に出ると さまざまな衝撃が出迎える。そのうちのひとつが、ど派手なアドトラック(宣伝カー)だ。 とりわけ、美しい男たちの写真を…

第44回

2022年1月26日更新

美しき男の系譜 〜聖セバスチャンの殉教~ その1

 洗礼者聖ヨハネをあれほどの美男に描いたのは、ダ・ヴィンチの独壇場であったろう。だが一般の宗教絵画に現れた美男の系譜で言うと、別に大御所が…

43

第43回

2022年1月26日更新

長い影の正体は? ボナールの『パリの朝』 〜ある日本人画家の思い出に〜

 地方の美術館で、思いがけぬ西洋絵画に出会うことがある。収蔵に至る道のりは様々であろうが、そのプロセス、絵のたどった運命を知ることで、作品への興味が俄然高まる場合が…

第43回

2022年1月26日更新

 ボナール、楠目成照、杉田久女・宇内夫妻。芸術の赤い糸に結ばれた運命の絆

ボナールとの関わりを軸にすえながら、もう少し楠目成照という画家について見て行こう。黄金のパリと言われた…

42

第42回

2021年10月16日更新

ゴーギャンの『黄色いキリスト』 〜タヒチへの一里塚〜

 美術に馴染みのない人でも、この人の代表作を見れば、すぐにも作者が思い浮かぶ。ポール・ゴーギャン(1848〜1903)…

第42回

2021年10月16日更新

Gauguin before Gauguin 〜ゴーギャンになる前のゴーギャン〜

 表に引き続き、タヒチに渡る前のゴーギャンについて書く。タヒチ以降の作品イメージがあまりにも顕著である分タヒチ以前の作品については、どこか…

41

第41回

2021年8月25日更新

幻想の密林ジャングル、アンリ・ルソーの緑の夢

 この春、裸木が芽を吹き、新緑が日に日に緑を濃くして樹木全体に繁茂するまで、こまめに観察を続けた。部屋の窓から、枝を広げる欅の木が…

第41回

2021年8月25日更新

ルソーのジャングル、夢のたゆたいの果てに

 アンリ・ルソーは25点ほどの密林(ジャングル)の絵を残した。描いた作品の数で言うと26点になるが、1点は散佚しているため、現在のところ…

40

第40回

2021年8月15日更新

エゴティストの後ろ姿 〜ブリューゲル、『謝肉祭と四旬節の争い』〜

 冬のヨーロッパを彩る謝肉祭が、今年はコロナのため、軒並み中止に追い込まれた。謝肉祭中止を聞いてこの絵を思い出した。ピーテル・ブリューゲル…

第40回

2021年8月15日更新

逆さまの白昼夢 〜ブリューゲルの尽くし絵〜

 1559年前後、ブリューゲルは立て続けに「尽くし絵」を製作した。ひとつの町を鳥の目のように俯瞰しながら、テーマに即したあらゆる…

39

第39回

2021年4月15日更新

アメリカの孤独、大地に生きるひそやかな息遣 〜ワイエス、ヘルガ・シリーズ〜

 20世紀を牽引し、今なお世界に君臨する超大国アメリカ。ホワイトハウスに摩天楼、NBAや大リーグ、ディズニーランドやハリウッドetc…

第39回

2021年4月15日更新

モンパルナスのキキ 〜天使降臨、史上最強のモデル〜

 ワイエスのヘルガ・シリーズは、誰の目にも触れられることなく、14年間にわたってひとりの画家がひとりの女性を描き続けた結果…

38

第38回

2021年1月14日更新

人生の同伴者への眼差し 〜ロココの異端児、シャルダンの静物画〜

 うっかりスープ皿を割ってしまった。食器洗いの途中で手が滑り、床に落としたのだ。高価なものでもなく、日用品ではあったが20年近く使い慣れたものだった…

第38回

2021年1月14日更新

物、人、猫、そして画家である自分 〜シャルダン、響き合う生命いのち

 華美に満ちたロココの時代にあって、奢侈な風俗に流れず、素朴な静物画を描き続けた異端児、ジャン・シメオン・シャルダン…

37

第37回

2021年1月8日更新

スウィングする生の歓び 〜デュフィ、光と色のハーモニー〜

 外には燦々とした陽光が溢れている。無窮の青空の彼方には、白波を返す海原が広がり、鳥や獣、虫の棲む緑の深い森があり、人々の…

第37回

2021年1月8日更新

モーツァルトは青色?! 〜デュフィと音楽〜

 デュフィの両親がアマチュア音楽家であったことは前に記した。父は教会でオルガンを弾き、指揮もした。母はヴァイオリン奏者だった。両親だけでない…

36

第36回

2020年9月11日更新

魂のエクスタシー 〜ルドン、『目を閉じて』〜

 コロナで美術館に行けなかった数カ月の間、この騒ぎが収まったら、どの絵画作品を見たいかと考えた。パリのルーブルを始め、ウィーンの美術史美術館…

第36回

2020年9月11日更新

ルドンの「故郷」を訪ねて 〜ボルドー、そして岐阜〜

 その地を訪ねたのは、既に20年ほど前になる。パリのモンパルナス駅からTGVの特急列車で約2時間、ボルドー・サン・ジャン駅で下車し…

35

第35回

2020年7月2日更新

白夜に舞う狂おしさ 〜ムンク『生命のダンス』〜

 世界の大都市が抜け殻のような外観に変わった。ロックダウンはSF小説もどきの白昼夢を現出させ、日常や常識の尺度をかしがせた…

第35回

2020年7月2日更新

ムンクの「べろ(舌)」さがし

 もう20年あまり前のことにはなるが、3月から6月にかけて、長く北欧諸国に滞在したことがある。3回に分けて、都合45日くらいは…

34

第34回

2020年5月20日更新

北の至宝。静寂の詩人、ハマスホイ

 20年ほど前――、衛星放送でスカンジナヴィアの特集を担当したことがある。1週間、様々な番組で北の風土や文化を紹介した。アンデルセン…

第34回

2020年5月20日更新

ハマスホイ。静寂の奥にひそむ濃密な気配

 例えば、お初、徳兵衛といった、文楽人形の男女の頭が左右に並ぶような2人である。
 『画家と妻の肖像、パリ』(1892)…

33

第33回

2020年4月23日更新

大地に込めた再生の祈り ミレー『春』

 秋から冬にかけて、立て続けに川端康成の小説を読んだ。その過程で、素晴らしい1枚の絵に出会った。ジャン・フランソワ・ミレーの『春』…

第33回

2020年4月23日更新

虹いくたび ~虹を描いた画家たち~

 子供に自由に絵を描かせると、空に真っ赤な太陽を添えることがしばしばある。「御日様」という言葉があるくらいなので、子供心に、陽射しに満ちた昼の空には…

32

第32回

2020年4月23日更新

鏡が映し出す都市の縮図 マネ、『フォリー=ベルジュールのバー』

 「鏡よ鏡、鏡さん、世界で一番美しいのは誰?」――。
幼い頃から馴染んだこの有名なセリフは、グリム童話『白雪姫』の中で…

第32回

2020年4月23日更新

マネと音楽 ~格差と階層を超えて~

 社会派の画家であったマネは、ずいぶん貧しい人たちを描いたが、彼自身は上流家庭の人だった。その家には、常に音楽が溢れていた。夫人がピアノをよくし…

31

第31回

2019年11月29日更新

物たちは主張する 〜濃密な変奏曲。セザンヌの静物画〜

 恥ずかしい告白から始めよう。私にはその人の描くその手の絵が、ひどく苦手だった。
長い間、よさがわからなかった…

第31回

2019年11月29日更新

愛の絆か、復讐の無言劇か?セザンヌ夫人の肖像

 イギリスに10年暮らしながら、ロンドン大学に付随するコートールド美術館には行きそびれてしまった。改築工事で休館中であるのを機に…

30

第30回

2019年9月21日更新

史上最強(!)の猫絵が結ぶ 少女とルノワール、運命の絆

 知り合いの猫好きたちに尋ねてみた。「世界の名画で、最も可愛い猫絵は何でしょう?」――。各人各様かと思いきや、多くの場合、答えはほぼ1点に絞りこまれた…

第30回

2019年9月21日更新

ルノワール、猫から見る多面体の面影

 ルノワールと猫を語る時、若い頃に描いたこの絵は外せないだろう。『猫と少年』…

29

第29回

2019年9月21日更新

ボナール、愛の私小説 〜反復され聖化される記憶〜

 その名もずばり、タイトルは『男と女』である。クロード・ルルーシュに同名の映画があったが、甘美な愛のロマンティシズムに比べれば、この絵はかなりほろ苦い。ポスト印象派の画家、ピエール・ボナール…

第29回

2019年9月21日更新

アンティミストのボナール、体験から記憶、そして絵画へ ~愛の私小説の熟し方~

 「視神経の冒険」――画家ピエール・ボナール(1867~1947)を語るのに、しばしばその形容が用いられる。…

28

第28回

2019年9月21日更新

時空を超えた心の巣。コローの描く森

 その人の絵を目当てに、美術館を訪ねたことがない。それでいながら、世界のどの美術館を訪ねようと、気がつけば、その人の絵を探している。そこに行けばフェルメールがあるとか、ダ・ヴィンチに…

第28回

2019年9月21日更新

秘めたるエロス。風景画家コローの描いた女性像

 コローの森の絵になじんで以降、しばらくの間、私にとってこの画家は自然と風景を専門とする芸術家だった。ちょうどイギリスのコンスタブルのように、田園に徹した風景画家だと思い込んでいた…

27

第27回

2019年9月21日更新

日本を愛し、日本との戦争で死んだ男 戦争画家・ヴェレシチャーギン

 初めてこの絵を見た時、ベトナム戦争に反対するアーティストの作品ではないかと感じた。だがその後、頭蓋骨の積まれた山の背景が熱帯雨林のジャングルでなく、砂漠のような乾燥した…

第27回

22019年9月21日更新

バーチャル美術館 ヴァシリー・ヴェレシチャーギン回顧展

 某年某月、東京の美術館で話題の展覧会が開かれる。東京での展覧会終了後は、札幌や大阪など、地方都市でも巡回展が予定されている。展覧会の案内やチラシには、代表作の、頭蓋骨が山と積まれた…

26

第26回

2019年9月21日更新

猫がつなぐオンとオフ 広重『名所江戸百景 浅草田甫酉町詣』

 絵画芸術は枠の中の平面を基本とする。四辺に囲まれた画布が世界の限りとなる。だがすぐれた絵は、時にこの四辺の枠を飛び越える。描かれた情報は枠内に収められるが、絵に込められた思いは…

第26回

2019年9月21日更新

オン・アンド・オン 国芳、尽くし絵の意気

 歌川広重のオフの巧みさについては述べた。
 時代は1世紀近く遡るが、鈴木春信の絵も、秀逸なオフの美学を抱えていた…

25

第25回

2019年1月5日更新

ジャック=ルイ・ダヴィッド ナポレオンを描いた画家の栄光と無残

 美術に関心のない人でも、この絵は目にした記憶があることだろう。前足をあげ峻険な山道に挑みかかる白馬に颯爽と跨り、力強く号令を発する若き…

第25回

2019年1月5日更新

ボナパルト、ああボナパルト、ボナパルト!ナポレオンを描いた画家たち、それぞれの運命

 「余の辞書に不可能という文字はない」――。あまりにも有名なこの言葉を、実際には言ったとか言わなかったとか、ともかくも…

24

第24回

2018年10月23日更新

廃墟の画家、ユベール・ロベール 古代と革命、ギロチンを免れた男の2つの時間

 アテネのパンテオンを始めとする、ギリシャの古代遺跡をまわったことがある。2千年を超す時を経たいにしえの神殿が、抜けるような青空のもと白々と…

第24回

2018年10月23日更新

マリー・アントワネットを描いた女流画家、ヴィジェ=ルブラン 運命の旅路

 「廃墟の画家」として知られ、あわやギロチンにかけられるところだったユベール・ロベール。その人の面影を伝える最も有名な肖像画は…

23

第23回

2018年9月3日更新

アガペーとエロスの間に ティツィアーノ「悔悛するマグダラのマリア」

 旧約から新約まで、聖書は基本的には男性原理に貫かれている。しかし人間界が男女ふたつの性から成り立つ以上、何らかの形で女性の物語も付随せざるを…

第23回

2018年9月3日更新

聖母マリアの乳房を探せ!

 聖書が伝える聖母マリアは、処女のまま懐胎し、イエスを産んだとされる。 主を産み育てた、聖なる母である。ひとりの女性を超越している。女であることを…

22

第22回

2018年6月15日更新

レンブラント「ベルシャザールの饗宴」一宗教を超えた人間の真実

 日本に桜の花が咲く頃、ヨーロッパにはイースター(復活祭)が訪れる。磔刑に処せられたイエス・キリストが、死後3日目に復活した…

第22回

2018年6月15日更新

旧約聖書が炙り出す画家レンブラント

 北のヴェニスとも呼ばれるロシア、サンクト・ペテルブルクのエルミタージュ美術館を初めて訪ねたのは、まだソビエト時代のことであった。ロマノフ王朝の栄華を伝える膨大な…

21

第21回

2018年6月15日更新

ヤン・ブリューゲル、花瓶の中の「世界」

 オランダ、フランドル地域に、おそろしくリアリズムの研ぎ澄まされた静物画が盛んに描かれた時代があった。自然界の生き物、動植物を生々しくも鮮やかに描き出す細密画風の絵画群が出現した…

第21回

2018年6月15日更新

ザ・慶賀 後の巻  『フローラ・ヤポニカ』を超えて

 バタビアを発ったオランダ船は、毎年夏に長崎に入り、秋には出港する。その年、1828年の秋も、オランダ船コルネリウス・ハウトマン号は、多くの荷を積み込み、出航の日を待って…

20

第20回

2018年6月15日更新

木下杢太郎(きのしたもくたろう) 「百花譜」、終末の中の生いのち命の輝き

 彼は多才な人だった。医学者であり、劇作家、翻訳家、美術史家、詩人でもあった。かつ絵をよくした。彼はまた多忙な人だった。大学病院での勤務はもとより…

第20回

2019年9月20日更新

ザ・慶賀 前の巻 長崎から世界

 江戸時代の日本に、世界に通じたボタニカル・アーティストがいた。その人の手になる植物画は、ヨーロッパに今も1500点近くが…

19

第19回

2018年1月2日更新

猫に生き、猫を愛し、猫を描(か)いた 究極の猫画家、ルイス・ウェイン

 この人には、世話になったことがある。猫の挿絵で知られたルイス・ウェイン(1869~1939)。2016年に出した『漱石とホームズのロンドン』という本の中で…

第19回

2018年1月2日更新

東アジアのキャッツ・ワールド

 ルイス・ウェインによる猫の擬人画が、19世紀末から20世紀の初めにかけて、イギリスを中心に、たいそうな人気を博したことは述べた。7匹もの猫を飼い、「猫姫様」の異名をとる…

18

第18回

2017年9月17日更新

響き合う異魂。「猫画家」フジタ

 海外、とりわけヨーロッパに暮らす日本人にとって、フジタは(藤田嗣治)特別な存在である。私自身、10年に及んだイギリス暮しの折々に…

第18回

2017年9月17日更新

泰西名画に猫を探せ!

 フジタが押しも押されもしない世界の「猫画家」であることは、先に述べた。近代の西洋絵画を見回すと、ルノワールを筆頭に、猫を愛し、画面に登場させた画家はそれなりに…

17

第17回

2017年8月22日更新

時よとまれ!永遠の少女の輝き ~ベラスケスが描くマルガリータ王女~

 世界の十大傑作絵画というくくりがあるなら、この絵は必ず選ばれるであろう。17世紀、スペイン絵画の黄金期を牽引したベラスケスの…

第17回

2017年8月22日更新

少女と画家。時のパズルを超えて。

 古今東西、少女の絵を手がけた画家は少なくない。絵描きは少女に魅せられ、絵を通して私たちは少女に魅せられてきた。ベラスケスが描いた王女マルガリータは、その…

16

第16回

2017年6月21日更新

聖なる生命力 クールベの描いた樫の木

 堂々たる木だ。樹齢数十年にはなるだろう。大地から聳え立つ太い幹は途中いくつもに分かれ、それぞれにまた幹をなし、そこからいくつもの

第16回

2017年6月21日更新

木を描く画家たち

 艶麗、夢幻の女性美を薫り高く描いたウィーン世紀末の巨匠、グスタフ・クリムト。めくるめく裸身が画面いっぱいにひろがる官能の陶酔が身上かと思いきや…

15

第15回

2017年5月2日更新

芸術の魔力 クリムトの描いた幻のシューベルト

 ウィーンは歴史に熟れた町だ。時間の堆積に発酵した美が、残照のように光り輝く。モーツァルトやベートーヴェンが生きた、永遠の音楽の都でもあることはもとより

第15回

2017年5月2日更新

ウィーン世紀末、音楽と美術とのマリアージュ

 黄金色に輝くネギ坊主のような球形の装飾を頂いたセセッシオン(分離派館)――。そのオリエント風なたたずまいは、バロック建築の教会が建ち並ぶ…

14

第14回

2017年3月29日更新

永遠なる幸福の瞬間(とき) ルノワール「ピアノを弾く少女たち」

 壁を越えるものに惹かれる。絵画と音楽が交差する作品とあれば、おのずと注目が高まる。例えば、大のお気に入りのフェルメールのなかでも、ヴァージナル

第14回

2017年3月29日更新

ピアノのある風景

 ルノワールの「ピアノを弾く少女たち」が、市民階級の経済的台頭によって一般家庭にピアノが導入された社会潮流を背景としている点は既に述べた…

13

第13回

2017年1月6日更新

権力と愛欲の渦中に 英国テュ―ダー朝の宮廷画家、ホルバイン

 生まれ育ったのはドイツのアウグスブルク、画業を生業(なりわい)に暮らし始めたのがスイスのバーゼル、そして画家として決定的な活躍の場となった所がイギリスの

第13回

2017年1月6日更新

ホルバインとThe Tudors ~肖像画家を鍛えた宮廷の「主役たち」~

 ヘンリー8世の宮廷画家となったホルバインが、偉丈夫の体躯堂々とした王の全身像を描いたのは、王が3番目の妻となるジェーン・シーモアと結婚した1536年か、翌年であろうと言われている。そして…

12

第12回

2016年11月05日更新

「後宮」絵画の謎。「ガブリエル・デストレとその妹」(フォンテーヌブロー派)

 美しい絵はいくらもあろう。だが、この絵のごとく、喉奥に刺さってとれぬ魚の小骨のように後々まで心に引っかかる絵は、そうあるものではない。寓意に満ちていることはわかる。だが容易には

第12回

2016年11月05日更新

後宮の奥深くに ~フォンテーヌブロー派の匿名性~

 王の御前で、絢爛たる騎士道の試合が行われようとしていた。観衆の喝采を浴びて、銀色に輝く甲冑に身を包んだ馬上の騎士が登場する。とりわけ人々の耳目を集めたのは…

11

第11回

2016年8月11日更新

戻って行く世界。レンブラントの自画像

 その人が暮らし活躍した町、アムステルダムはもとより、ロンドンやパリで、またベルリンやウィーン、ひいては日本の熱海市においてさえ、その筆になると言われるその人自身の姿に…

第11回

2016年8月11日更新

自画像という多面鏡

 自画像という絵画ジャンルは、他人の肖像を描くよりも、よほど後になって生まれた。しかるべき質の鏡が開発される前には、おのれの姿をまじまじと見つめることは…

10

第10回

2016年6月28日更新

「聖母被昇天」ヴェネツィアの至宝、ティツィアーノ

 人のすれ違うのがやっとという、狭い路地を進んだ。両側に聳え立つ壁に、靴音が響く。壁の向こう、建物の内部には何があるのか、いにしえの宮殿か商館か修道院か…

第10回

2016年6月28日更新

聖母像に想う ~もうひとつの愛の美神たち~

 地中海沿いのリゾート地、コスタ・デル・ソルからほど近いスペインのマラガ。ピカソの生まれ故郷としても知られるこの町で…

9

第9回

2016年4月14日更新

クラナッハ。貧乳のヴィーナスが放つ至高のエロス

 人間復興を奉じてイタリアにルネサンスが発祥して以来、多くの裸身の女性たちがキャンバスに登場することになったが、中世絵画における宗教の重しからの解放感か…

第9回

2016年5月11日更新

ヴィーナスの揺曳 ~クラナッハの「眠れる美女」たち~

 私の想いはなおもクラナッハに留まり、ヴィーナス像の不思議な美のたゆたいの中に揺れている。何故このような個性的な裸婦像が次々と…

8

第8回

2016年1月26日更新

あなにやし! 愛のイコン、春画

 会場にいた2時間半ほどの間に、一体いくつのその姿、その場面を目にしたことだろう。睦み合い、絡み合う男女、そのものずばりの…

第8回

2016年1月31日更新

裸婦に思う。「借り着」を剥いだその下に

 ヨーロッパの美術館に行くと、繰り返し現れ、否応なく目を惹くことになるのが(とりわけ筆者のような男の場合!)、裸婦像である。いわゆる…

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第7回

2015年12月12日更新

シャガール、喪失者の夢想

 「月日は百代の過客にして」とは『奥の細道』の書き出しであったが、なるほど生きるということ、日々齢を重ねるということは、現在を…

第7回

2015年12月12日更新

微笑みの鏡。シャガールと音楽、劇場

 ルーブルは語るにしかず、オルセーもよい、ポンピドーも面白い。しかし、パリの美術スポットを訪ねるなら、是非ともここにも足を運びたい。ガルニエ宮としても知られる…

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第6回

2015年10月6日更新

炎の画家・ゴッホが仰いだ星空

 彼の描く絵は、いつもぎらぎらしている。風景であれ、ヒマワリの花のような静物であれ、自身を含む肖像であれ、きまってその絵はぎらぎらと…

第6回

2015年10月6日更新

魂のユートピア。ゴッホが夢見た「日本」

 パリを発った汽車は、一路南を目指した。1888年2月下旬――、目的地のアルルが近づくにつれ、車窓の景色を追っていた男の顔に…

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第5回

2015年9月8日更新

マグリットは「禅」である!

 30年近くも前になるが、「日曜美術館」(NHK)の制作班にいたことがある。若手ディレクターとして最初に登板し採りあげたのが、ベルギーの…

第5回

2015年9月8日更新

「禅」で読み解くマグリットの謎

 部屋の壁に穿たれた格子窓がある。今、窓外を牛が通る。頭が、角が、四肢が格子窓を過ぎて行く。だが、最後に続くべき尾だけが、いつまでたっても…

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第4回

2015年5月9日更新

一木一草の輝き ~ボタニカル・アートの「命」~

 「ああ、イギリスだ」……。会場に足を踏み入れるなり、胸の焼けるような郷愁を覚えた。ひとしきり続いた火照りが退くと、今度は穏やかな心地よさが胸を浸した。これもまた、イギリスを…

第4回

2015年5月9日更新

川原慶賀、世界が認めた日本のボタニカル・アート

 キューガーデン(王立植物園)のあるロンドンは、種苗や標本、植物画にいたるまで、世界の緑の集積地であった。そしてもうひとつ、ロンドンと並んで、海の彼方から緑が集められた…

3

第3回

2015年3月31日更新

ブリューゲルとの邂逅。そのたじろがぬ視座。

 小学校6年生の時のことだったと記憶する。小遣い銭を溜め、初めてLPレコードを買った。ベートーヴェン作曲、交響曲第6番「田園」―。アンドレ・クリュイタンスが…

第3回

2015年3月31日更新

ブリューゲルとタルコフスキー。こだまする魂

 ウィーンの美術史美術館のブリューゲルの部屋に足を踏み入れた者なら、誰しもが一連の作品群から発せられる独特の気に息を呑み、豊饒にして濃厚な世界を前に、必ずや…

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第2回

2015年1月11日更新

挿絵の魅力。不滅の物語に不滅のアート

 イギリスに暮した頃、よく古典物のペーパーバック(文庫本)を買った。「積ん読」になってしまったものも多いが、それなりに数をそろえてみると…

第2回

2015年1月11日更新

漱石の『猫』が開いた物語とアートの新時代

 秋の日の午後、東京駒場の日本近代文学館で幸福なひと時をすごした。熟れ行く季節の穏やかな陽射しが射し込む閲覧室に座をしめた私の前には…

1

第1回

2014年12月2日更新

ロンドンでフェルメールを独り占め

 巨大な円柱が並ぶファサードから中に入ると、私の足は決まってある場所へと向かった。ロンドン、ナショナル・ギャラリーは…

第1回

2014年12月2日更新

フェルメールと春信、瞬間に込められたふくよかな物語

 私の心は、なおもロンドンのナショナル・ギャラリーのフェルメールの部屋に留まっている。「ヴァージナルの前に立つ女」と…